真っ白な標本箱に収められたのは新旧の住民の心をつなぐ“日常の記憶”

昭和37年に建設され、名作団地と呼ばれた赤羽台団地(東京都北区)が、UR都市機構の建て替え事業によって「ヌーヴェル赤羽台」に生まれ変わった。

建て替え事業は2000年にスタートし、2010年までにA~C街区が竣工。設計には複数の建築家チームが参加し、それぞれ個性あふれる建物を提案している。画一的な建物が並ぶマンモス団地のイメージを一新するプロジェクトだ。

「すべての街区で共通しているのは、建て替え前の記憶を継承するものをどこかに採り入れていることです」と話してくださったのは、B-2街区の設計を担当されたCAt(株式会社シーラカンスアンド アソシエイツ 一級建築事務所)のデザイナー、高橋好和氏。

 団地内のメインストリートであるイチョウ通りに面したB-2街区には、カラフルなベランダの手すりパネルが目を引く5号棟と集会所棟が立っている。この集会所のロッジア(開廊)に、建て替え前の団地で使われていたさまざまな部品がコーリアン®製のフレームに大切に収められ、展示されている。

「展示したのは、昭和30年代の〝団地〟を象徴しているものです。それに、ふだん人が手にふれていたもの、記憶に残っているものです」と高橋氏。

スチール製の引き戸サッシュ、玄関の黄色いプレスドア、ネームプレートなど、すべて解体前の棟に足を運んで、選んだものばかり。


フレームに刻印された数字は、展示物の来歴を示している。写真のエレベーターボタンは「12号棟の6階/1962年9月竣工」の意味。


この展示についての説明と赤羽台団地時代の配置図もコーリアン®のフレームに収められている。

「展示の方法で目指したのは、博物館の標本ケースのようなものです。採取したそのままの形で、美しい箱に封じ込めた印象にしたかった。フレームは最初からコーリアン®でつくるイメージを強く持っていました。シンプルでソリッドなものをつくろうと考えると、加工の手軽さもありコーリアン®を選びますね」

 解体とともになくなる運命だった部品と一緒に収められたのは、人々の何気ない「日常の記憶」。こうした展示がつくられたことで、建て替え前から住む人にとっての宝物のような思い出が、新しく住む人との共有財産となる。人々をつなぐ展示が、いつまでも時間に埋もれることのないよう、大切に守る役割を、経年変化に強いコーリアン®がしっかりと果たしていく。


向かい合う二つの会議室をつなぐロッジア空間。住人たちの憩いの場にもなるよう計画された。 

 

●所在地 東京都北区赤羽台
●事業主 独立行政法人都市再生機構 B- 2 街区 5 号棟・集会所棟  
●設計  市浦・シーアンドエイ設計共同体
●デュポン コーリアン® 販売店 株式会社 松崎

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