古今東西、文化が交差した宿場町で人々を温かく迎える看板

静岡県三島市は「せせらぎの町」と表現されるように、風情ある水路が張り巡らされた美しい街である。この街の顔である「三嶋大社」は、奈良・平安時代の古書にも記録が残る、由緒正しい神社だ。

その大鳥居の目の前に、門前町らしい佇まいの商業施設『大社の杜みしま』がある。間口が狭く、奥行きがある敷地に、個性的な店舗が軒を連ねる様子は、まるで裏路地のよう。モダンな建物に囲まれた広場では、週末を中心に、さまざまなイベントが開催されている。

「『大社の杜 みしま』は、地元のゼネコン企業が、門前町の活気を取り戻すべく立ち上げたプロジェクトです。観光客だけでなく、地域の方々が活用でき、集える場所をつくりたいというお話でした」と話してくださったのは、『大社の杜 みしま』の設計を手がけた、アシヤ アーキテクツ株式会社の相澤康子氏。

 第1期、第2期工事は、2013年11月に完成し、2014年に静岡県景観賞最優秀賞を受賞している。そして第3期工事となる新店舗が、今年5月、羽切建築設計事務所・羽切直樹氏との共同設計で完成した。

 三嶋大社の大鳥居に向かう下田街道に面した新店舗は大屋根の下に整然と並んだ垂木が社寺建築を思わせるデザイン。参拝客を迎えいれる門のようにも見える。

 街道筋から最も目につく南西の角には、真っ白な看板が掲げられている。『大社の杜 みしま』ロゴマークが控えめに彫り込まれただけのシンプルなデザインながら、その大きさ、輝く白さで、街道を行きかう人々に施設の存在をしっかりアピールしている。さらに日が沈むと、看板そのものが光りだし、幻想的な雰囲気へと変化する。

このようなデザイン、仕掛けを可能にしている素材こそが、コーリアン®だ。

「建物自体が、施設のシンボルとなるようなデザインを目指していましたので、看板も建築の一部として設けたいと考えました」と相澤氏。

そこで、採用されたのが、羽切氏が提案した、看板そのものを光らせるという案だった。

「こうした使い方をする場合、透光性だけでなく、屋外使用に耐える耐久性も備えていなければならず、コーリアン®にかわる素材はありませんでした」と羽切氏。


ライトアップによって陰影が濃くなり、デザインが際立つ夜の風景。「建物の一部としてなじむ素材感やジョイントの美しさという点でも、優れた素材だと思います」と相澤氏。

相澤氏にとっても、はじめての試みだったため、コーリアン®の特殊な加工にも精通する株式会社エイペクスに協力を要請。試行錯誤しながら、ライトアップをした際に、下地材の影が極力出ない方法を追求した。

「微調整をぎりぎりまで繰り返していただきました。おかげで、新しいことにチャレンジしていこうというオーナーの意向をしっかりと反映した建物を実現することができたと思います」と相澤氏。

 郷土を愛する企業と、仕事に誇りを持つ人々の思いがこもった看板が、三嶋大社に向かう参拝者、地域の人々を末永く歓迎することだろう。

 


テラス席にはコーリアン®の大テーブル。中央にバイオ燃料の暖炉を組み込んで、暖房器具と一体化した。

テーブルを光らせるアイデアは、屋根のデザイン上、上からの照明をつけることができないため、逆転の発想で生まれた。

 


下田街道からの眺め。グラーサ* ホワイトの看板と青空の対比が美しい。看板の下、一階部分の壁は漆喰塗り。化粧梁や造作家具には、構造材として用いられることが多いLVL 材を使用し、現代的な和風を表現した。


ライトアップの際に影が出ないよう、膨大な数の直径12mm の透明なアクリル棒でコーリアン®を支えている。

●所在地   静岡県三島市大社町18-52
       http://taishanomori.jp
●監修・施工 加和太建設株式会社
●設計    アシヤ アーキテクツ株式会社 羽切建築設計事務所
●看板製作  株式会社エイペクス
●協力会社  株式会社微助人 有限会社松田商会