明るくモダンな空間で 優雅なひとときを

 2018年3月、新宿と箱根、江の島などの観光地を結ぶ小田急電鉄の特急ロマンスカーに新型車両「GSE(70000形)」が登場した。

「GSEは、ロマンスカーの伝統的なスタイルを継承し、同年7月に惜しまれつつ引退した車両『LSE(7000形)』の代替車として計画されました。最大の魅力は、車窓からのダイナミックな眺望です」と説明してくださったのは、小田急電鉄の車両担当・松下陽士氏。

 ロマンスカーの象徴ともいえる「展望席」のある先頭車両は、フロントガラスに大型の曲面ガラスを採用。さらに荷棚を設けないことでダイナミックな眺望を実現している。また、車体側面の窓には高さ1mの曲面ガラスを採用し、一般席でも風景を存分に楽しめる設計になっている。

 車両設計を担当した岡部憲明アーキテクチャーネットワーク代表の岡部憲明氏にもお話をうかがった。

「私たちがデザインの本質で大事にしているのは、内部空間をいかに広く獲得するかということです。それこそが、居住性を豊かにする最大の要素だからです。空間的に余裕があるとはいえない車両の設計では、荷棚のインパクトを最小限に抑え、天井を広く見せることが必要でした。そこで、空に浮かぶ雲のようなやわらかい表現で、空間性を損なわない荷棚をデザインしました」。

 曲線を描く荷棚の下面と、窓の間のキセ部分の素材に採用されたのがコーリアン®だ。


「加工性だけでなく、視覚的に伝わるテクスチャーも意図する空間性につながる素材でした。通常、木質系の温かさを適度に入れる、というのが私たちの設計方針ですが、GSEでは、より明るく、モダン性をもう一歩押し出そうという意識がありました。コーリアン®は木や石のように誰もが感じる優しい印象のテクスチャーと、モダンな表現力をあわせ持つ素材だと思います」と岡部氏。

岡部憲明アーキテクチャーネットワークが設計を手掛けた既存車両のロマンスカー・VSE(50000 形)でも採用されている手洗いボウルをはじめ、座席間の窓際に設置されたテーブルなどにもコーリアン® が使用されている。

 同事務所の山口浩司氏も、コーリアン®を選んだ理由について次のように語ってくださった。
「耐火性や安全性など、車両に使用する素材にはさまざまな制限があります。そうした条件をクリアしつつ、自由な形状をつくれること、さらに比重が2を切る軽さも決め手になりました。私たちにとってはキッチントップをはじめ、非常に馴染みのある素材で、耐久性にも信頼があり、メンテナンスがしやすいこともよく知っていましたので、自信を持って選ぶことができました」。

 不特定多数の乗客が、さまざまな条件下で利用する車両空間では、あらゆるケースを想定して、設計、デザイン、素材の選定を行わなければならないという。それでも、ロマンスカーに乗車しているひとときを、より快適に、優雅に過ごしてほしいと、電鉄会社とデザイナーが力を合わせて、これまでにない提案を詰め込んで生み出したのが、ロマンスカー・GSEだ。

「車両づくりは非常にシビアな世界です。その中で、新しいことに挑戦できるというのは、小さな一歩ではなく、大きな前進と言えます」と岡部氏。

それはコーリアン®にとっても大きな一歩であることは間違いない。

 

 

●企画・運営        小田急電鉄株式会社
●デザイン         岡部憲明アーキテクチャーネットワーク
●コーリアン® 加工協力会社 株式会社エイペクス

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