光を湛えるカウンターで もてなしの空間にリニューアル

静岡県熱海市の高台に建つ「MOA美術館」。

国宝や重要文化財を含む貴重な所蔵作品に加えて、風光明媚な相模灘を一望するロケーションも人気で、開館以来、多くの人々を迎えて来た。
建物は周辺の自然環境をそこなわないよう配慮された設計で、山裾のエントランスから山上の本館まで続く全長200m、高低差50mのエスカレーターで地下トンネルを上っていくアプローチ空間「アートストリート」も有名だ。

 同館は、館開35年の2017年2月に全館がリニューアルオープン。アートストリートのエントランスホールもー部改修され、デュポンコーリアン® 製の光るカウンターが置かれた。そこで、アートストリートをはじめ、改修の設計施工を手がけた竹中工務店の橘保宏氏、山近秀樹氏、戸澤和久氏にお話をうかがった。

 「実はエントランスホールが少し奥まった位置にあるため、外からは暗く見えてしまい、開館しているか分かりづらいということが、課題として挙げられていました。そこで、当初は壁全体を光らせて視認性を向上させるなどの案も検討していまた」とて橘氏。しかし、既存の床・壁は石張り、天井はコンクリートパネルで重厚につくられていたため、最終的には、既存の空間を生かしながら課題を解決し、印象を一新する方法として、ホール中央に光るカウンターを配置するアイデアが採用された。

 「光が透ける蛍手という技法をつかった白磁の器を、そっと置いたようなイメージはどうかと考えましたと」戸澤氏。空間を明るくすると同時に、来場者へのもてなしを、カウンター自体で表現するというコンセプトでデザインが進められた。


光の仄かなグラデーションを表現しながら、躯体の影が出ないよう、光源の配置や躯体の作り方を工夫し、加工協力会社のエイペクスと相談しながら何度も調整を重ねたそう。「そのかいがあり、ほぼ期待通りの仕上がりになりました」と橘氏。

「部分的ではなく、カウンターそのものをオブジェのように発光させることで、新鮮な印象にできるのではと考えました。それが実現できる素材でかつ、シームレスで三次元に加工できるという点で、デュポンコーリアン®を選定しました」と山近氏。

 光の入れ方にもこだわり、カウンターの底辺に光源を配置してグラデーションをつけることで、重さを感じさせない、浮遊感を演出した。

 「既存の空間に馴染ませるのではなく、あえて一つの展示物のような佇まいを目指しました。また、光を通すことで素材感が抽象化され、カウンターそのものが光のオブジェのように見えるので、重厚感あふれる石貼りの空間にも負けない存在感をまとうことができたのではないでしょうか」。

 ホール全体を明るく照らし、山上のMOA美術館本館への期待感も高めるエントランスに変貌させた、発光するカウンター。大規模な改修を行わない場合でも、空間のイメージを刷新することができるリフォームの可能性や、デュポンコーリアン®の表現力を、デザインの力で最大限に引き出した事例と言えるのではないだろうか。

 

 


アートストリート エントランス外部。長い庇と風除室の奥にあるため、暗く見えていたエントランスホールの中央に、デュポンコーリアン® の光るカウンターが浮かび上がり、アイキャッチの役割を果たしている。

 

 

MOA美術館 http://www.moaart.or.jp/

●所在地 静岡県熱海市桃山町26-2
●設計 株式会社竹中工務店 橘保宏、山近秀樹、戸澤和久
●受付カウンター施工 野原産業エンジニアリング株式会社
●デュポンコーリアン® 加工協力 株式会社エイペクス